もちのように
にゃんしー

「あなたの夢はなんですか」

と聞かれたとき、
子供だったぼくらは
口々に答えた。

きれいすぎる瞳に
現実が棲むことは出来ず
あきらめることを覚え
妥協や言い訳がうまくなり
濁っていくのもそんなに悪くない

だって生きてる

と言ったときの表情は見るな


子供だったぼくらは
プロ野球選手になりたかった。
憧れの甲子園
縦じまのユニフォーム
ツーアウト満塁9回裏
ヒットを打てばサヨナラ勝利
震える肩はずませて
息吐きネクストバッターズサークルから
ゆっくりボックスへ
パッパラパパッパ
パッパラパパッパ
パッパラパパッパパー♪
おっとここでピッチャー交代
ピッチャー上原に変わりまして、
ピッチャー現実。ピッチャー現実。
見逃し三振、ゲームセット。

「あれはボールだった」

思い出は後悔にまみれてるけど
美化することが簡単にできる。
だってそんなにがんばってなかったから。
誰かのせいにする言い訳を舌先で転がし
飲み干した安いビール
酔っ払ったときの口癖は
「ねーちゃん、チューしようか」
はい、振り逃げ未遂。

もし女の子だったらケーキ屋になりたかっただろう。
「ケーキには、現実が含まれてないから、やさしい」
そしてメレンゲが卵の白身から作られるという事実を知って
ケーキ屋になるのをあきらめただろう。
卵は白身と黄身とにわけられるが
どちらもケーキに使われる合理的わりきり。
みんな頭いいなあ。
ぼくも頭がよくなったから、わかるよ。

「あきらめないと、いつまでも終わらないよ」
あ、安西先生ーっ!


「あなたの夢はなんですか」
と聞かれたとき、
大人になった僕らはなんて答えるだろう。
コンタクトレンズをはめた目を泳がせ。
タバコの匂いのする口を開き。
棒読みで一回だけ言う。

「もちになりたい」

冬になると何処の食卓にも並ぶような
白くてやわらかであたたかな、現実。


自由詩 もちのように Copyright にゃんしー 2015-08-02 01:29:58
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