山のあなた
本木はじめ

雨の日にてんとう虫を探すよりむづかしいこと考えていた


ゆれている壁の写真や金魚鉢自信を失くしたきみにゆれてる


驚いた山の紅葉へたくそなきみの手編みのマフラーそっくり


霧のなか木々のみどりがやさしくてあなたのことも忘れそうなの


水面に一面ひろがるまみどりの無音の波紋きみのさよなら


射し込んだ光がみどりをきみどりへ変えゆく初夏の半袖のさき


稜線を切り取る青い空をゆくぼくたちふたり鳥になろうか


たくさんのちいさな手のひら色づいて高揚してゆく木洩れ日のあす


つかまえてつかまえられてしあわせは籠の中なのそれとも外なの


苔むした岩の合間をすりぬけて水の流れる音だけを聞く


遠方に見える山々ふもとにてぼくの知らないひとが微笑む


樹下の影ひっそり咲いたたんぽぽのやはりひっそり枯れてゆく山


花見とかしたいねさくら満開のどこかの山のきみの近くで


真上から見下ろしている水田の牛の鳴き声だけは写せず


水車小屋きしむ柱に寄り添って遠い今夜を語るのだろうか


紫陽花の色の変化を克明に記したノートが色褪せている


ぼっかりと浮かんだ雲の彼方まで流れゆくまで見送った冬


田園の側に咲いてる向日葵が山の灯台あなたを探す


あの雲が何に見えるかアマガエルおまえのひとみが映すぼくたち


落下して潰れた柿の実ひとつでわたしはあなたについてゆきます


むらさきに染まる峰々うさぎくまきつねきつつきおやすみあなた


いくつもの雲くぐりぬけ終にわれあなたの山の内側に澄む





短歌 山のあなた Copyright 本木はじめ 2005-02-12 22:12:45
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