さよならとありがとうを
ららばい

どこかから迷い込んできたカブトムシは
黒々とした鎧に似合わない
くにゃりと甘い匂いがした
冷蔵庫にキウイフルーツがあったので
それでも与えて手なずけてみようかと思ったが
私の手のひらに収まらず
二の腕をがしがしと上るそいつを見ていたら
どういうわけか

深夜の気怠さの中
二の腕にそいつをひっつけたまま
サンダルをつっかけ
青臭い川原まで下りていく
名前はよく知らないが
そいつと同じような匂いのする
丈夫そうな木の根元にそっと離すと
自由になったはずのそいつは
自由になった故か固まって動かず
どうすればよいのと問うているよう

守ってあげられるのはここまでで
あとは自分で上るんだ
やぶ蚊に喰われながら
しばらくぼんやりとそいつを見つめる
外灯の光に照らされたそいつは
木にしがみき
初めて呼吸をするように
少し上下した




自由詩 さよならとありがとうを Copyright ららばい 2015-07-20 00:31:16
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