やさしさ
竹森

その灰は溶けない雪
音もなく降り積もる
つむじまで埋もれた人々は
噂によればその開かない唇で
「それは降らない」と言うらしい


(嘘は、言葉が、ではなく、人間が、付くもの。)
(嘘は、言葉に、ではなく、人間に、付くもの。)


浜辺から押し寄せた麦の山塊が
この世で最も頑丈と言われた灯台を倒壊させる
青空に翼を持つ生物の一切が一斉に飛び立ち
ひしめき合い流れる血液の豪雨は
大地の亀裂と間隙の一切を埋める
どころか大地の一切を赤い薄膜で真っ平に均す
そのすぐ後には血液が抜けて軽くなった肉塊が一斉に降り注ぎ
それはまるで積乱雲の墜落
数十秒前の起伏を大地に再度もたらす


ワンワンと泣いたら犬に間違えられるとでも思ったのだろうか。世界中のありふれたお前達が一斉にワンワンと泣き出し遂には海を枯渇させ、大地を泥沼に変えてしまった。この涙が海の跡地である渓谷に流れ着くまでには、お前達の寿命をあと何度繰り返せば足りるのだろうね。そしてお前達の涙が溜まって再び形成された海にいつか生物が住み得るのだとしたら、その畸形は一体どれほどの醜さ、卑しさを兼ね備えているのだろうね。

(想像したくもないよ。)

ワンワンと泣き続けたお前達は海が枯渇した後も、泣くことを悔いてやめるどころか、泣くことに飽きてやめることすらせず、よりいっそう許しを求めて泣き続けた。


お前達は今こそ綴ることをやめるべき時だ。
お前達はお前達の醜さ、卑しさをもう存分に吐きだしたよ。
お前達の惜しみない協力のお蔭で、
お前達とお前達以外の分別は早すぎるほど早く終わらせることが出来た。
だがお前達は今さら綴ることをやめるなど出来やしない。

いずれお前達は、綴ることをやめられない自分達は死ぬべきなのだと綴り始めるのだろうか。
しかし、死ぬことでしかその醜さ、卑しさを肉体の内に隠し果せない、お前達とは、一体、嗚呼、一体、何なのであろうか?




そう、これは俺の優しさ。


自由詩 やさしさ Copyright 竹森 2015-07-17 22:24:41
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