何もない一日 雲を泡立てて貝殻模様のカップを洗う
花の雨 眠るわたしのこめかみにふれているのはくちびるですか
モノクロのアネモネきっとあなたならうすむらさきを選んで写した
はるじおん はるじおん はるじおんの字は咲き乱れ、銃声がなる
なぜだろう無意味なものほど愛しくて座席をひとつ移る夕暮れ
うずく、まるわたしはあらゆるまるになる月のひかりの信号機前
みもざ、みもざ 歌ってほしい耳もとで雨粒よりも小さな声で
はじまりとおわりはわたしが決めること檸檬は荷から床にころがる
君までのきょりわるじかん、それははやさ。ひかりの帯となりゆく列車
Metallic lyric脚を君のためきっかり二時の角度にひらく
いもうとが息をはくたび粉雪は少し遠くへゆきさきかえる
むこうから誰かが歩いてきたけれどいないみたいにすれちがうこと
初めての眼鏡をかける夕暮れの明朝体のはらいの細り
いつまでも生えてこなくて憧れるエジャキュレーション 銀河のような
デネブ発アルビレオ行 ポケットの胡桃で二枚切符を買った
書肆侃侃房新鋭短歌シリーズ23「うずく、まる」より