ヤモリ
あおい満月

うまれいずるものを
おさえこむちからもなく
うまれいずるものは
しずくとなりわたしの腕から流れ出る。
宿命と名づけた
うまれいずるものは
わたしの耳を支配し
目をからめとった。
それからわたしは、
見えない鎖に繋がれて
未知の鼓動を聴いている。



右手薬指に見えない声を聴き、
左手には錆びた傘を持つ。
そんなものたちのなかにいると
わたしの背中にいる
無数の嗄れた翼などどうでもよくなる。
何かに集中するほどに
左に傾く背中には
蛇がいる。
夜通し見張っていないと、
蛇は背中から抜け出し
わたしは歩けなくなる。

**

台所のシンクの隅に
ヤモリの子供が潜んでいる。
警戒しながらわたしをみると
生ごみの闇に消えていく。
そうして翌朝、
お腹をぱんぱんに腫らして、
千切れた尻尾の先を赤く染め、
シンクのなかでわたしを視ている。
ヤモリはわたしだ。
母の様子を窺い行動を決める。
わたしは母のヤモリだ。
背中よりも近い
リビングの柱に張りつき行動を窺う。
しかたがないと諦める。
今はこの柱の温度が
今の生活なのだから。



自由詩 ヤモリ Copyright あおい満月 2015-06-27 08:15:50
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