檸檬
あおい満月

刃で
切った左手
痛みが、
手から背中
脳髄に達するまでの
みじかい時間
はじめて、
檸檬の酸っぱさを
知った。
左目がつぶれていく
顔が崩れそうになる味

白い布を
左手にあてがうと
つぶやきほどの
ちいさなあかい
あしあとを残して
傷痕は目をとじた

眠ったままの傷痕
隠し持っていた
まち針の先で
抉じ開けてやろう
閉じた瞼の内側は
虚像の肉の塊を喰う
恍惚であふれている

それでも傷痕は
悪びれもせずに
赤い舌を出す
鏡を覗けば
まち針で抉じ開けたあとの
いくつもの唇から
刃が睨んでいる
糸のように細い
さかなの目をして


                 昨年の伊東静雄賞、落選作品(爆)


自由詩 檸檬 Copyright あおい満月 2015-06-20 09:26:43
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