流血
葉leaf




血が流れた
宇宙のはずれにある
名もない心臓が
包丁で抉られて
抉り返されて
名もない心臓は
他の名もない心臓を愛していたし
他の多くの名もない心臓も
名もない心臓を愛していた
だが愛もまた名もなく力もなかった
名もない心臓は
他の名もない心臓に誠実だったし
他の多くの名もない心臓も
名もない心臓に誠実だった
だが誠実さもまた名もなく力もなかった
名を持ち力を持っていたのは
心臓を抉った包丁だけ
名もない心臓は流血で間もなく死んだ
他の多くの名もない心臓はそれを丁重に祀った
だが弔意もまた名もなく力もなく
歴史に痕を刻むこともなかった
血が流れたという事実
ただ流血という事実
この事実だけは包丁が歴史に刻みこんだ
歴史においては
名もない心臓は犯罪者と記された
名もない心臓はもちろん
何を語ることも許されなかった


自由詩 流血 Copyright 葉leaf 2015-06-13 17:22:07
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