赤い靴のお婆ちゃん     
服部 剛

人々の行き交う、東京駅の構内。

黒く髪を染めた
赤い靴の、ちっこいお婆ちゃんが
赤い傘を、杖にしながら
白い化粧の頬を、ゆるませ
何ごとかを唱和しながら
ゆるり…ゆるり…進んで行く

ふいに、足を止め
柱に凭れていた、僕は
ちっこい背中が
遠のいてゆくのを見ていたら

――幾千年前の( 誰か)

が、この体に入って来て
無性にお婆ちゃんを愛おしむ、液体が
滾々こんこんと心の井戸から湧いてきた

堪え切れなくなった、僕は
きびすを返し
とんとんと…ホームへの階段を、上っていった  






自由詩 赤い靴のお婆ちゃん      Copyright 服部 剛 2015-06-08 21:53:07
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