恐怖と悲しみ
なをり

秋の公園に朝がきて
木漏れに異常なほど光さす
鈍い振り子の風が落ち葉を巻き上げる
はじめてきづいたのだけど
公園にはたくさんの人がいる
手をつないで目を細めている
でもなぜ?
巨木たちは人々よりもあまりに大きい
橙と紫の蝶のつがいが地面を交尾で覆わんとして
僕はそれを踏まないように跳ね回り絶叫する
やがて蝶のつがいは交尾の姿勢のままいっせいに飛び立つ
僕は変な英字がプリントされたダサいパーカーのフードをかぶるが
それは僕には小さすぎた
母が僕から蝶を払いのける
僕は母親を見つけてからいっそう絶叫を強めたのかもしれない
はじめてきづいたのだけど
公園にはたくさんの人がいる
手をつないで目を細めている
同じ方向にゆっくりと進んでいく
心地よい風が追い立てているのだ
僕はそれを拒否する

布団で目が覚めて
母親 もしくは同じくらい大事な人を
二時間も待たせていることに気づいて
餌をやり忘れたような気持ちで
真っ青になりながら洗面所に向かい
暗い浴室にうなだれる彼女を見て息が止まる
母は振り返り胸に抱いた洗濯物を僕に押し付けたが
それはすべて床に落ちて 
僕は声を一ミリも出さずに嗚咽した


自由詩 恐怖と悲しみ Copyright なをり 2015-06-07 23:15:41
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