ひと夏
アンテ


偶然だと信じて疑わない
まぬけな横顔
寝息をたてるあなたの頬を
指でなでる
地の底まで貶めるために
ひと夏のあいだ張っていた罠に
まんまとかかって
バカ丸出しで
イビキをかいて
泣いてひざまずかせるはずだったのに
安っぽいエアコンの風が冷たい
蛍光灯がちりちり音をたてている

もう潮時だ
耳の奥でなにかが鳴っている

やけにはっきりした寝言も
人懐っこい目じりも
なんでこんなに同じなのだろう
わたしだけのものだって
勝手に思い込んで

背中にくっついて丸くなる
ひたすら眠っていたい
朝目が覚めた時
いなくなっているのが
今でも得意なの
あの娘にも嫌味を言われて
一生懸命
言い訳をしたの

夏のあいだ
今この瞬間だけ考えて
考えすぎて
なにをしたかったのか
わからない


切らなければよかった
眠れない時
あなたがいじる手を
ぴしゃって叩くのが
好きだった
なんにも考えなくてすむ
魔法だったんだね

さよなら



「Poison」 #4
inspired by ぽわん 「一夏恋」


自由詩 ひと夏 Copyright アンテ 2015-05-29 01:36:57
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Poison