日陰がいい季節になった
ただのみきや

冷たい石の陰に身をひそめる蜥蜴
葉の裏で翅を休めるクロアゲハのように
公園から木影のはみ出している場所へ
車をすっと 滑り込ませる

小柄な老女が日傘をさし
現場作業員の日焼けした顔の向こうを通り過ぎる
迷い込んだような 自分の時間の上を歩いて

重機が唸りを上げて土砂に噛みついた
幼子は怪獣に夢中だ
つないだ手が伸びきっても まだ もっと

通りの向こう 惜しげもなく
晒された娘たちのすねひざもも 
それだけを別注で作らせた石膏像

上には取手がふたつあるティーカップ
硬質な顔と目花口の柄模様
時間に追われるように爪先立ちで行くが

その足元の縁石にはもっと細く軽やかな脚
もっとくびれた腰つきで
蟻たちが季節を緻密に刻んでいることには気づかない

日陰がいい季節になった
ホットには入れないミルクを
アイスには少しだけ
かき混ぜないで そっと吸う

 愛は万人のもの
 憎しみだけが個人資産

そんな稼ぎにもならないことを
一日の隙間に仕舞い込んでいる
日の当たる場所をそっと覗いて 
狐みたいにずるそうな顔



         《日陰がいい季節になった:2015年5月27日》






自由詩 日陰がいい季節になった Copyright ただのみきや 2015-05-27 20:41:31
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