記憶を俯瞰するときには
じぇいぞろ

曇天の休日洗濯を終えた君が
キッチンで
フレンチローストの豆を挽く
大きめのグラス2つに
たっぷり氷を入れて
Tシャツからのぞく白い腕が
微かに震わせながら薬缶をかざす
溶岩のように膨らむあぶく
甘く濃い匂い。

二人分のグラスをテーブルに置き
彼女はソファに寝転がり
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絶妙に婉曲し
蒼い静脈の浮き出た白い腕と
精巧な工芸品のような
耳の軟骨を見ている。

開け放った窓から隣家の
親子喧嘩とピアノの音が聞こえる。

記憶を何度も反芻する。
忘却の向こう側へ
君が消失しないように。
匂いが上書きされないように。
あれ以来、アイスコーヒーは
飲んでいないよ。

いつの間にか、君を俯瞰している。
死んだのは君なのに。
これがクラインの壷ならば、
冒涜を犯してもいい。

ねえと横たわる君に声をかける。


自由詩 記憶を俯瞰するときには Copyright じぇいぞろ 2015-05-16 12:13:50
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