わたしの部屋には
ただのみきや

現実から逃れるためではない
現実を死ぬまで生きる
そう 何処かで決めているから
扉も窓も開けたままにしてある
鍵は壊れたまま
入口は出口で出口は入口
外側は内側で内側は外側
脳が現実だと判断する辺りを
少し曖昧にしておく
理も知も使い方
あまり持ち上げない
たんなる計算係だ

都合よく多重人格にはならない
欲しいもの 欲しい人を
こっそり持ち込んで遊んでいる
創りだしたつもりでも
何処かに原型がある
無から有を創造するのは
真の意味では神のみの業
永遠も無限もまた
だが人は有限な素材を
小さな器で混ぜたり捏ねたり
人の創造は想像から
無限は夢幻の中にある

――まあ
あれこれ言い訳してもしょうがない

我こそは幻想郷に巣くう妄想狂なり
ここが相続地 わが館
貧しき精神の小舟が時空を超える港
あらゆるものへ変容し
また木偶の坊へと戻る 隠し部屋よ
誰ひとり招くこともないが
ただ描き記した言葉の奥の暗闇から
時折漏れてくる ゆれるランプの灯
生者と死者が出会い
虚構と現実が一つのテーブルに着く
魂の揺らぎの残像から成る都市で
愛すべき幻たちが集い戯れる広場には
孤独や悲哀が愛や喜びの如く咲き乱れ
透明なうねりに揺蕩いながら
幼生が脱皮を繰り返すように
瞬間が永遠へ変容して往く様を
月のように詠うのだ
ある時は豊満
ある時は鋭利に
我こそは幻想郷に巣くう妄想狂なり

甘い監獄
ゆるやかな死刑執行

現実から逃れるためではない
現実を死ぬまで生きる
そう 何処かで決めているから
平気で詩人のふりなどする
目利きを騙す偽物がいい
一人きりがいい
どこか少し壊れたままがいい
成し遂げるべきことなんて
ここにだけは持ち込ませない



         《わたしの部屋には:2015年5月13日》








自由詩 わたしの部屋には Copyright ただのみきや 2015-05-15 22:54:53
notebook Home 戻る