記憶
大覚アキラ

記憶というのは
たぶん
脳のとても奥深くに
結晶していて

たとえば
海馬とか
松果体とか
そういうところに
ある種の化学物質として
存在しているんだと思う

(いつか話したと思うけどさ
 この話
 もう一回だけ聞いてくれるかい)

一晩中ずっと
あの曲が頭の中に流れ続けてて
明け方
カミソリみたいに
空気
冷え切って
目が覚めたら
薄紫色の結晶になって
涙と一緒に流れ出てたんだ

キレイだろう
この結晶
アンタにあげるよ
おれの宝物
さあ
涙を拭いて
舌の先で
少しだけ舐めてごらん

 おれは幽霊
 おれは記憶
 おれは薔薇を咥えた髑髏の刺青
 おれは青褪めた犬
 おれはキャンディグリーンのミニカー
 おれは
 アンタの脳の
 隅の隅まで探しても
 絶対に見つかりっこないような
 見たことのない色で
 アンタの世界を塗り潰す 

音楽は
ここで
唐突に
終わる

(これでおれの話は終わりだ)


自由詩 記憶 Copyright 大覚アキラ 2005-02-09 10:08:35
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