水滴を巡る追憶には
りゅうのあくび

激しい夕立は
突然やってきて
落雷で鉄道が遅れている
小さな駅舎で
雨宿りをしながら
駅の改札で恋人と
待ち合わせをしていて

豪雨は短いうちに
まるで屋根を
ひっくり返したように
ほとばしる雨音
大きな雨粒には
恋しい人の残像を映す
ひと粒の大きな水滴ぐらい
きっとあるだろうと探し始める
どしゃぶりの大雨は降りそそぐ

命の宿る水滴は
降り続く雨と
仕事の汗と
そして切ない涙と
あらゆる水分が集まりながら
蒸留水となって
蛇口からは
とってが付いた
屋根のない
小さな部屋のような
不思議なマグカップに
命の水が溜まる
恋人たちは命の水を飲み干すと
水分を含む大空の欠片になる
なぜだか遠い海の匂いが
ほんのりとして
ふたりの運命を見つけだす
愛のひと粒がある

ふと孤独ではない沈黙に
大きな水滴を巡って
追憶は呼び覚まされる
水分の結晶が
積もる雪化粧となる
大雪と引越が重なり冗談ではなくて
愛のひと粒をともに運ぶ
恋しい人と白い息をたて
眼差しの奥では微熱が生まれる
雪化粧は遠い海へと溶け出しながら
とても大きな雲になっていく

熱帯夜の大空を見上げる
入道雲がすでに
ふわりと通った跡がある
各駅停車が恋しい人を
ゆっくりと乗せて
到着するのは
いつになるだろうか
まだ遠くの雷鳴を聴きながら
駅舎の改札で待ち続ける

電車が鉄道駅に
停まる時刻より遅れて
改札に恋人が到着する
何だか一瞬と永遠は
とても似ている

まるで水筒から
そっとこぼす水の雫みたいに
愛のひと粒はうるおい
種のひと粒になる
駅舎の清潔な床からは
恋しい人が綺麗に咲いている
愛のひと粒から育まれる
感謝に包まれる花は
恋を確かめるように
ささやかな笑顔として
にっこりと咲く


自由詩 水滴を巡る追憶には Copyright りゅうのあくび 2015-05-04 05:56:55
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