伊藤 大樹

汗に濡れたシャツをはだぬぎ
わたしは暗闇のなかを
帰るふりをして 逃げたのだ
七月の 台風の 雨のなかを
精一杯生きようとして 逃げたのだ
咎められることは何もない
そのほかのことは知らない
〈台風が過ぎ去ったら
 夏が来るんだろうか〉
声のないそんな囁きが
壊れそうな東京の曇天に響き
わたしははじめて
無邪気にねころぶ

………
言葉は失われてしまった
あの空の深い青に
触れることのない青に 融けてしまった
戻ろう
あの深い沈黙の中へ
逃げよう
あの冥さへ
あの季節へ


自由詩Copyright 伊藤 大樹 2015-05-01 17:43:10
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