あを。あを。あを。
竹森

(あを。あを。あを。彼らを)
(僕らとは呼びたくない。海を見た事の無い僕)
(たったさっきまでひらがなを綴っていた。)
(塩水を海水と呼びたくもなる。瓶が卓上に敷く陽光の)
(シートの下に掌を押し入れて、傾けると)
(午前は午後に変わり)
(肌越しに抜け落ちる血の管の。あを。)
(あを。あを。それを)
(眺めているのは、僕ではなくなる。を。)

ガラスのひたいに噛み砕かれて
輪郭を持ち崩したままメールを着信したのなら、
点滅する携帯電話を湖に投げ捨てて、
夜空に燦然とまたたく星々のひとつを、みつめては、
つこいのかずをかぞえる。

コルクの栓が抜け落ち
(て冷水の張られた風呂桶を鳴らした。新しい蓋が)
毎晩積み上げられていく
(のなら、)
あの森の湖にも落ちた
(携帯電話を投げ捨てた日、)
宝石の値札を取り換える音がした方を向く
指先が乾いた血の蔦を、十二月を真似て垂らすと
(一本の火炎瓶で、)
あの森が燃えたふりをして、あを。
(ようやく森が炎に包まれて。)
あを。あを。
(何度目かの夜が明けてから辿るといい。)
(黒い水のおもてから、)
ようやくお前が咲いたね
(と。)

梢が 葉ずれの
眼の無い星の 見る森が
体毛の 濡れしょぼった
「さむいね」が
「さみしいね」の 膨れあがった
ひたいの 青白く 腫れあがった
黒い葉かげを 突き出た骨に 貼り付ける
朝露に 野良犬の 死肉から 突き出た
十二月の梢に 貼り付く 黒い体毛の
奥深くへと 逃れていく 体温を
「さざめく」と
「さざめく」と
幾重にも
幾重にも
串刺せば
黒い森が まず さきにとだえて
死肉が じきに いきをふきかえして
笑う頬に
骨が突き出て
貼り付く
濡れしょぼった
髪の毛に
「またかよ」と
「またかよ」と




(―――笑う。ながめているのはぼくではなくなり笑う。はつこいのかずをかぞえて笑う。くろいみずのおもてからようやくおまえがさいたねと笑う。蔦なくて笑う。管らなくて笑う。さむくて笑う。さみしくて笑う。さざめいて笑う。またかよと笑う。あを。あを。あを。蔦なくて笑う。管らなくて笑う―――)


自由詩 あを。あを。あを。 Copyright 竹森 2015-04-30 00:37:32
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