春について(ホットケーキ)
竹森

春に、ついていく、少女に、
ひとひら、ひとひら、
名を、羽織らせる、
少女に、ついていく、
少女も、また、
春に、ついていく、のなら、



「くだらない」



嘔吐で隠ぺいされた
「くだらない」がまた
ホットケーキを
台無しにして
ないがしろにした
約束ばかりを
僕は
どうして思い出す
桜は紅葉する
前に散れ
桜は枯れる
前に散れ
少女はこの先
崖の先
で僕に
犯される
のを
待っていろ

だからたとえば
ぬくもり
おともなく
沈黙を強いられた
そして
ついには顔のない
屈強な戦士に侵された大陸。そこで踊る少女のかなしみ
僕はそれを愛している
屈折した鏡像。ホルマリン浸けにされた少女のかなしみ
僕はそれを愛している
くんずほぐれつくんずほぐれつくんずほぐれつ少女のかなしみ
僕はそれを愛している

少女は紙に名を託し
伝書鳩を病室の窓から解き放つ
千羽鶴から拭われた少女の嗚咽
その残り香が
いつまでも仄かに鼻腔を突く

(ぼくはそれをあいしている)

祈り方を知らないまま
嗚咽に次ぐ嗚咽のまま
ないがしろにされたホットケーキが
拒まれた夏の風景に似ているまま
コーヒーばかりが黒色なので
透明な少女のひとみなので
彼女に「ひとみ」と名付けられた
両親のかなしみを憎悪したまま
少女たちのかなしみそのまま
それだけを僕は慈しんだまま

伝書鳩が
満開の桜を目指す
君だけは
いつまでも
人を
愛せないまま
でいて
それだけを
僕は
祈り続けた


自由詩 春について(ホットケーキ) Copyright 竹森 2015-04-12 00:05:03
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