早春のアルルカン
塔野夏子

やわらかな月の宵に
ものうげなアルルカンがあらわれる
ここに来てくれてありがとう
匂菫の花束をあげましょう

少し遠くの霞んだ墓地では
姿のないコロスたちが歌ってる
アルルカン その歌にあわせて
聞かせてよ
あなたが知っている いくつもの物語を
小粋な身振り手振りで

アルルカン そうやっていると
時折あなたの背中に
よじれた羽が見えるわ
この不思議にひしゃげた宵の空なら
その羽でも飛べるの?

アルルカンは答えない
さびしく微笑うばかりで

やがて月が傾いて
ものうげなアルルカンは去ってゆく
ここにいてくれてありがとう
しずかな接吻をあげましょう





自由詩 早春のアルルカン Copyright 塔野夏子 2015-04-07 20:07:12
notebook Home
この文書は以下の文書グループに登録されています。
春のオブジェ