晴れの日にブルース
ただのみきや

眠気に包まれた祈りが煙の海を泳いでいる
硝子越しに並んだ雑誌の女たち

未だ馴れない携帯メール
     たどたどしい指先

男性誌と女性誌では
同じ美人でも漂う匂いが違っている
雄と雌は別の獣なのだ
人間であることを共有していても

――ああコーヒーが効いてきた
     小さな蕾が膨らんだ頭の真中で

愛のデスマスクを模した仮面は装飾され
素顔の欲望に煌びやかな魔法をかける
祝祭に訪れた旅行者のように享楽を傾けて
けれど愛は
娼婦が夢の中で孕むぬくもりかもしれない
透明で 時には鉛の貞操帯となるほどに

(入学おめでとう
   ――続きが 浮かばない

ビリー・ホリデイがラジオで歌っている
生身は消えた 
歌声だけが響いて来る 
時代を越えたのだ

送信する文字に心は乗車できただろうか
以心伝心に対し言葉は遅速な蝸牛なのか
伝えないための言葉が時代を越えて
やがて宇宙の言語に翻訳されるだろうか
住所も宛名も
イマハムカシ 
     ミライハイウダロウカ 

――息子よ  

晴れの日にブルース
土曜日にはいつも
失くしたものの気配
分別される前の心から

仕事が始まる
     始めるのはおれだ


   
              《晴れの日にブルース:2015年4月4日》








自由詩 晴れの日にブルース Copyright ただのみきや 2015-04-04 23:40:26
notebook Home 戻る