三月の蜜柑
イナエ

こたつと蜜柑の季節が終わって
それでも フッと食べたくなる蜜柑
蜜柑産地のJAで赤い網袋に入って
300円の値札を付けて並んでいる
かんの間むろに貯蔵されていたものだ

みずみずしい皮をむけばしわしわの房
水分を無くして甘みも薄い
ややしなびた皮をむけばぴっちり詰まった房
かめば凝縮した甘みが口中に広がり

  不意に浮かんだ従兄の姿
  ブランドのネクタイ 
  オーダーメイドの背広
  彼は言うのだ
  「人の信用を得るには外見が大切だ」と
  ある日 新聞に載った彼は詐欺師
  艶やかな皮膚に隠された内部疾患

ああ 皺の捩れた母の手が
三月の蜜柑の皮をむく 


自由詩 三月の蜜柑 Copyright イナエ 2015-04-01 11:09:14
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