龍人さんへの小詩集
宣井龍人

【龍人】
滑らかに曲がって
緩やかに曲がって
何時までも曲がって
何処までも曲がって

掌の記憶の球体
見覚えのある顔
球体を眺める
目の奥が笑う

掌の人の形
見覚えのある顔
人の形を眺める
目の奥が笑う

目の奥が笑う人の形
見覚えのある顔
人の形を眺める
記憶の球体が笑う

【長い友達】
龍さん、龍さん、
もっと優しく……
そんな一気に乗らないで

そんな一気に乗られちゃ
体ごと振られてぐるぐるぐるぐる
あっちこっち引きちぎられちまう

そりゃ君には恩がある
埃だらけの僕に声をかけてくれた
君の大人への成長も喜んださ

だけど、今の成長はお腹だけ
見れば見るほど情けない
スリムな僕を見習えよ

なに?少しは手加減をしてくれ?
そりゃ君とは長い友達さ
だけど、嘘をついたら僕じゃない

龍さん、だいたい君はね
グタグタグタグタ酒ばかり呑んで
自分に対する反省はないのかね

うわっ、怒って一気に乗らないで
もっと優しく……
龍さん、龍さん

【掘る】
人影のない砂浜に
寡黙な男がただ一人
月光に姿を映し出す

鍛え上げられた裸体
黒光りするシャベルを掲げ
男は何も語らない

掘る

男は掘る

力強く掘る

弾ける背中を月光が照らす
逞しい男の影が躍動する

掘る

男は掘る

力強く掘る

狂わしい上半身を月光が照らす
男は流れる汗を拭おうともしない

掘る

男は掘る

力強く掘る

やがて一面の砂浜を月光が照らす
そこには繰り返す波音だけが響いた

【ある日の龍人さん】
たまった仕事に許しを請い
飲んでもいない千鳥足

暗闇に押されて歩を進め
重いドアを押し開ける

せせこましさから遮断され
肩で息
口で溜息

薄汚れたボロボロの仮面
無造作になった龍人さん

獲物は無重力の言葉達
短い命をひらひらと

早速虫採り網を引っ掴み
勇んだ子供が振り回す

見れば見るほど消えていく
追えば追うほど去っていく

何ももらえない龍人さん
仮面も取れずに夢の中

最高の笑顔の夢の中
ああなさけなや(ガックリ)


自由詩 龍人さんへの小詩集 Copyright 宣井龍人 2015-03-29 11:38:04
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