ヨゼフの哀しみ
吉岡ペペロ
マリアが子供を産んだ
ヨゼフはじぶんの子供ではないことを知っていた
マリアはあのひとと結婚していた
マリアはヨゼフのたいせつなひとだった
ヨゼフもマリアのたいせつなひとだった
ヨゼフは子供が聖霊の受肉であることを信じていた
マリアがあのひとに姦淫されていないことを信じていた
ヨゼフはときどき黒いこころに襲われた
かならず訪れる死とおなじくらい
それはヨゼフを焦がし苦しめた
マリアとあのひとが蕩けるように愛し合っている
ヨゼフはじぶんがマリアのなかに入ることを夢見た
それはみじめでも悲しみでもなかった
かならず訪れる死とおなじくらい
事実としての哀しみと言ういがい言葉はなかった