人間>社会
吉岡ペペロ
4階部分まで破壊された5階建ての団地が放置されている
コンクリートの仕切りは家々の跡だ
道の駅は廃墟でよこに松の倒木がいくつも転がっている
それでも残骸はもうほとんどなかった
山から海のあるほうにむかって白いベルトコンベアがつづら折りになって降りていた
海抜をかさ上げするために土砂を運んでいるのだ
土砂の丘が整然と海を目隠ししている
だから海が見えなかった
見渡すかぎりが立入禁止だった
防潮堤を二段構えにし防潮堤と防潮堤のあいだを松原にする計画らしい
二段目の防潮堤のうしろを土砂で高台にしてそこを居住区にするそうだ
放射性物質でゴーストタウンになっていたあの村よりここには社会がある
津波より放射性物質のほうが
破壊より放射性物質のほうが
はるかに社会をなきものにするのだ
人間<社会ではない
社会は人間がいなければ存在できない
人間>社会なのだ
こんなあたりまえのことを体験しなければわからないぐらい
馬鹿で愚鈍で頭でっかちな自分を後悔で省みていた