6ジグソーみそ汁
吉岡ペペロ

ぼくは祖父ちゃんによく似ているらしい。

子供のころよくそう言われた。

祖父ちゃんは島で暮らしていた。

釣りとかカブトムシ狩りとか教えてもらった。

祖父ちゃんは昼間釣りをしていて溺れてなくなった。

ぼくは海を見ていると祖父ちゃんを感じる。

祖父ちゃんとつながっていることで柔らかくなれるような気がした。

フロントガラスから天気のいろを映した海面が見える。

バイトは昼から夜までにしていた。

前の前の会社を辞めたとき昼夜逆転のバイトをして体調を崩したことがあるからだ。

前の前の会社は妻に言われて辞めた。

夜遅く帰るぼくに妻は厳しかった。

海が草原のように見える。

春先の晴れた日はそんなふうに見える。

梅も咲いているくらいだしもう春なのだろう。

バイトの女の子と仲良くなっていた。

10以上歳が離れている。高校生だ。

あした映画を見にゆく約束をしていた。

母は妻のことを親戚じゅうに言い散らかして弟の嫁との関係までさらに悪化させていた。

父はつまらん女だと怒鳴りあげて家ではその話題ができないようにした。

草原のような海だ。

祖父ちゃんを感じる。

母のお父さんだ。

バックミラーに映る前髪がなんかの動物の体毛のようだ。

ぼくは物覚えがわるかった。

すこし病的なぐらい言われたことをすぐ忘れる。

彼女と映画に行くのはあしただったっけ。自信がない。

でもぼくはたしかめない。

しばらくそういうことから離れていたかった。

またいずれ会社で働く日が来るだろうから。しばらく離れていたかった。

草原が姿を消していた。

雲を見上げた。雲はパラル。パラルかあ。海は石みたいな色になっていた。

外に出て風にあたった。

生温いひかりだった。

ぬるいみそ汁のような匂いがした。

日がさして海がまた草原になった。

生温かったひかりが少し温度をあげてぼくはそれに押されるようにして車に戻った。






自由詩 6ジグソーみそ汁 Copyright 吉岡ペペロ 2015-03-01 20:24:53
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