伽藍の春
atsuchan69

爽やかな朝が座禅を組んでいるのを遠巻きに見て、
賑やかに客が行き交う池のある庭に面した廊下に立っていたおまえは
鼻を垂らし、
昼も夜もなく透明な凍りついた顔で笑っている

やがて厳しい冬が過ぎ、
畳の目から女の声が湧きだすと
身体のない和式の右、
もしくは左の耳が手をあててその声を聞き始め、
報道記者たちもいっせいにマイクを向ける

 ♪にゃあー、にゃあー

天井に吊るされたいくつもの首が揺れる
庭を歩いている人も思わず足を止めてその声に惹かれた
とつぜん、蓮の葉を浮かべた池の水が噴き出すと
足の生えた錦鯉が幾匹も
白い玉石を敷いた庭に躍り出た
さらに細かな畳の目から
乱暴で予測不能なイメージや、
恐れや、不安、狂気、
忌むべきものらが湧き滲み、
天井に吊るされたいくつもの首が
愉快に、笑いながらボコボコ落ちて畳の上を転がった

 ♪にゃあー、にゃあー

いつの間にか足の生えた錦鯉が大勢になっていた
ぐるぐると池の周りを囲んでラッキー池田みたいに踊っている
池のある庭に面した廊下に立っていたおまえは落ちた首をひとつ拾うと、
その首を胸に抱いたまま鼻を垂らし、
声を掛けられた外国人観光客とならんで記念写真を撮られていた

爽やかな朝は、相変らず座禅を組んでいる







自由詩 伽藍の春 Copyright atsuchan69 2015-03-01 10:45:09
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