アディオス、神様
yamadahifumi

真理は正に沈黙する事によって語られる、と

ウィトゲンシュタインは「論考」で私に教えてくれた

今、私達のしている事は絶えず言葉を吐く事によって

世界を分節化していく事

そうしていつの日か、世界は細切れに

バラバラになってしまった


荘子は原初の「一」

つまり分節化される前の自然状態を理想として考えていた

そうした考えからすれば孔子の倫理や道徳は

人工的なわざとらしい技巧に過ぎない

自然状態を遠く離れて私達は今や

ただ、一欠片の言葉となってしまった


様々な人が

価値観の多様化という美名の下に

様々な論争と闘争をしている

そしてそれらが全て意味を追い求める一つの病であるというなら

今、私の窓から見える

この雪に一体、

どんな「意味」があるというのか?

「詩など何の役にも立たない

人は社会に役立つべきだ」という人間存在ーーその集塊が

一体、何の役に立っているのか

私はふと疑問に思う

そしてその疑問はこの雪の中を

まるで乾いた蒸気のように

ゆっくりと天に昇っていく


「世界よ、さっさと壊れてしまえ」

私の小学校三年生の息子はそんな事を言いながら

おもちゃを畳に叩きつける

…息子には見えているのだろうか?

この世界を壊そうとする私達大人の営みが

そしていつだって子供達は

大人のする行為を模倣するだけ


もし、世界が壊れたら

その時、また新たな世界が顔を出す事だろう

その時、私は名を失い

おそらく、「君」になっている事だろう

その時、全ての花々は沈黙し

そして人間の代わりに神が降臨する事だろう

神になろうとして失敗した人間達の代わりに

どの人間よりもみすぼらしい神が

そしてそうした神はぼろきれ一枚まとって

また、一から世界を建設する事だろう

世界を言葉として、それを崩壊させた

かつて存在した人間達のその代わりとして


そして、我々はその時にはもはや

単なる言葉の遺跡となっている事だろう

そしてそこには一つの言葉も読み取る事ができないだろう

そう、それは今や、単なる「もよう」に変わってしまった

何故って、それを読み取る者が誰もいないから…


          ※※※


「アディオス、神様

もう一人の『神様』によろしく」


自由詩 アディオス、神様 Copyright yamadahifumi 2015-03-01 08:28:23
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