魔性と化生
ただのみきや

結露した窓から
こっちを覗き見て
耳の上の辺りが特にひどいまるで
死に損いの四月の残雪のよう
そう言って笑った
冬の魔性は
死と均衡のとれた美貌を冷たい時間に包み
去り際には何度か振り返る 
すこしだけ自嘲的に

瞳は無垢に巣立ったばかりの雀のように
肌でこっそり盗み見る
それがマナー自分なりの

狂気のために一部屋あてがう理由を問われれば
告白するだろう
凍りついた言葉の裏側を滔々と流れる
夢想の月が概念の枯れ林を道化のように照らす
浸食と混濁の夜
像のないおまえの冷たい素肌に溺れてしまいたい
そう指先を跳ねさせながら

風が樹木をしっかりと抱き寄せる
そして風という言葉が風を呼び起こす
窓は氷紋で覆われ
一瞬にして 
そんな事実は何処にもなかった

( 蜘蛛の糸は細いがしっかりと抱くべき対象を体感させる )

気まぐれに立ち寄っただけ
結露した窓から
ぼんやりと
遠い 終息

六つ目の窓に蜘蛛という言葉が巣を張っていた

ああ春の魔性は厄介者
胡蝶の手妻も鮮やかに
甘い吐息で触れなば落ちん
嘘嘘ぺろりと舌を出す
いつも返り討ちに会う
問われる前に告白するだろう
抽象と具象が秘術を競う光の海原で
おまえの胸 降り積もる桜の中に心を埋めてしまいたい
言葉は迸る水となり世界を塗り替えて往く

こうしていま満開となる
風は花びらを微かに散らし
肌や目にまで触れてしまう
手繰り寄せたか寄せられたのか
季節の魔性と言葉の化生

結露した窓から
二月の冷気が割り込んでくる
大きな綿雪
小さな声のように欹てて




               《魔性と化生:2015年2月22日》






自由詩 魔性と化生 Copyright ただのみきや 2015-02-25 22:15:02
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