父よ
りゅうのあくび

生き抜く命であるために
海外での独り旅に駄賃を
ポケットに包んで
二十歳で渡った地球儀の向こう
できれば
旅先で覚えた
スラングで話したいよ

病気を乗り越えて生きるために
隣人の苦労話に耳を傾けながら
生きることに感謝することを
誓ったかたい握手に
体温を感じた
父の手のひらは
暖かったよ

身銭を稼ぐようになるために
父が継いだ小さな出版社で
昔あくせく働いていくことが
生きていくことだったときに感じた
父のとても大きい背中と
薄給が入ったばかりの茶封筒は
侘しいだけではなかったよ

夢を描くことだけでは
食べてはいけないのだということを
純粋に否定するだけの仕事が
人間として生きることだとしても
病を治すことだったとしても
ひとつずつの命は
ひとつずつの愛によってのみ
守られていくのだろう
自分の本当に代わりになる人間は
結局のところいないのだろう

ただ僕は
誰もが幸せに長生きして
欲しいだけだったのだから
父と起業したのだけれども
再び一緒に働けて
良かったのだろう
きっとノンバンクから
借りるのはもう最後なのだろう

婚約した彼女の病が
良くなってくれることを
今は祈るし
看病し続けるだろう
老い先短い
父の未来より
ずっと大切な約束なんだよ



自由詩 父よ Copyright りゅうのあくび 2015-02-22 04:51:47
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