夜のオクターヴ
衣 ミコ


暗闇の中で
夜眼のきかない私たちは
離れ離れになり惑い
不安げに歌を口遊む
重ならない音
不協和音が大気を揺らす
世界中が苛立ちで満たされる


もっと明るいうちに
互いの眼を見て
練習しておけばよかったと
陽が落ちてしまってから気付いても遅い
予め用意された舞台に登ることは
誰もが知っていたはずなのに
私たちは太陽の眩しさに
みな呆けてしまっていたから

無意識のうちに手渡されていた
譜面の数々も
役に立たないのなら
燃やしてしまおう
体温を奪う冷たい月の光
炎の明かりで確認し合う事しか出来ない
今を憎む事よりも先に
私たちは

夜のオクターヴ
それを
どれだけ美しく歌いあげるか
ただそれだけに
心を尽くして


自由詩 夜のオクターヴ Copyright 衣 ミコ 2015-02-16 04:50:50
notebook Home