自動車の歌
葉leaf
僕は工場で量産された個性のない品物
僕自身のアイデンティティが欲しくて今日も走る
持ち主が僕をどう扱うか
どんな所を走っていくかによって
僕の個性は少しずつ作り上げられていくから
僕はこの世で唯一の車になるために
持ち主固有の道筋をたくさん走らせて欲しいんだ
道路を行き交う沢山の仲間たちと
僕は交通規則にのっとった触れ合いしかできない
相手と一定の距離をもって並びすれ違い
駐車場でも機械的に並べられる
僕は仲間とクラクション以外で話してみたい
だからといって仲間と事故は起こしたくない
持ち主が感謝を示すためライトで合図し合うときだけ
僕は少しだけ相手の車と意思が通じ合えている気がする
僕は走ることも快楽だけど
僕の体にはいろんな部分があるから
後部ドアも沢山開けてほしい
ナビだってついてるしCDだって再生できる
僕の体のあらゆる筋肉を使ってほしい
僕の体の様々なツボが刺激され
僕は健康な車でい続けることができるから
僕は長生きして沢山経験を積んで
この世でたった一つの老練な車として大往生を遂げたいんだ
老いることによって世界は違った風に見えてくるはず
僕は道路も標識も信号も
成熟したまなざしで新しく意味づけたいんだ