自動車の歌
葉leaf




僕は工場で量産された個性のない品物
僕自身のアイデンティティが欲しくて今日も走る
持ち主が僕をどう扱うか
どんな所を走っていくかによって
僕の個性は少しずつ作り上げられていくから
僕はこの世で唯一の車になるために
持ち主固有の道筋をたくさん走らせて欲しいんだ

道路を行き交う沢山の仲間たちと
僕は交通規則にのっとった触れ合いしかできない
相手と一定の距離をもって並びすれ違い
駐車場でも機械的に並べられる
僕は仲間とクラクション以外で話してみたい
だからといって仲間と事故は起こしたくない
持ち主が感謝を示すためライトで合図し合うときだけ
僕は少しだけ相手の車と意思が通じ合えている気がする

僕は走ることも快楽だけど
僕の体にはいろんな部分があるから
後部ドアも沢山開けてほしい
ナビだってついてるしCDだって再生できる
僕の体のあらゆる筋肉を使ってほしい
僕の体の様々なツボが刺激され
僕は健康な車でい続けることができるから
僕は長生きして沢山経験を積んで
この世でたった一つの老練な車として大往生を遂げたいんだ
老いることによって世界は違った風に見えてくるはず
僕は道路も標識も信号も
成熟したまなざしで新しく意味づけたいんだ


自由詩 自動車の歌 Copyright 葉leaf 2015-02-08 03:59:50
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