憲法九条は死んだ
紀ノ川つかさ

日本国憲法第九条は死んだ
お前達が殺したのである
憲法九条が何であるかを
お前達はとうとう理解できなかった
理由はひどく簡単である
それは戦争が絶対悪ではないということだ

お前達は戦争現場の殺戮行為ばかりを見聞きし
それが戦争の全てだと思い込んだ
例えるなら火事の現場での炎や黒煙
それがもたらす恐怖が火事の全てだと思い込むように
もしそれが全てとしか考えられなかったら
都市の防災計画などできないだろう
同様に殺戮行為のみが戦争の全てとしか考えられないのなら
本当の反戦行動はできないだろう
そしてその結果が憲法九条の死である

戦争が殺戮行為という絶対悪だと思い込んだため
戦争放棄を掲げた憲法九条は絶対善だと思い込んだ
絶対善なら説明せずとも必ず理解され
それは広まっていくだろうと思われた
そしてその浅い認識は憲法九条の命を
守ることも育てることもなかった
一方軍神達は自分達が悪と見られていることを知っていたため
極めて慎重かつ戦略的に説得力を身につけていった
武器を取って戦う理由は不当の是正である
いかに我が国に不当があふれているか
いかに世界に不当があふれているか
戦うことでいかに不当に対し貢献できるか
それらことを数値および理論で包んだ
プレゼンテーションを行った
それらは確実に広まっていくだろう
「考える者」から広まっていくだろう

絶対善にしがみついた
「考えない者」は
憲法九条をただ崇めるだけで
戦略的な命を与えることはできなかった
むしろ絶対善という認識であるがゆえに
戦略的になることを恥じていた
その結果
軍神達が探し出し見せつけてくる不当に対抗できる
いかなる答えも持っていなかった
その時憲法九条は
感情の一部でしかなかった
「戦争は嫌」
その感情の一部でしかなかった

儚い命であった憲法九条
使い方によっては
最もたやすく合理的に平和国家を築ける
戦略ともなれたろうに
戦略を恥じる連中により殺されたのだ
平和主義というものは
戦争が絶対悪であるという認識が生まれる度
絶対善という位置づけゆえ殺されていくのだ
そして再び
軍神が謳歌する時代が来るのだろう


自由詩 憲法九条は死んだ Copyright 紀ノ川つかさ 2015-02-06 23:40:19
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