僕しか知らない事件
とよよん

今朝8時8分にトーストを咥え「遅刻、遅刻!」(ふぃふぉふ、ふぃふぉふ)と口にしながらコートを大袈裟に翻して出掛けたのですよ、ばさっと大きな翼のように。いつもと違って。玄関でいってらっしゃいと見送ってからは、いつもと全く同じでした。窓の外にはいつものおじいさんのいつもの犬の散歩、いつもの時間に通過するいつものバス、まるで同じ。いつもの。今日もまるで同じ今日でした。ただ、窓の下から見上げる◯子の首が、真後ろまでぐりっと回転したように見えましたが、


Section1、隣席の男子生徒

《先生》◯子さんはお休みですか。遅刻ですかね。誰か何か知りませんか。昨日は来てたよな?□男君、
《□男》◯子さんは昨日お休みでした
《先生》そうでしたか?生身の人間の記憶ほどあてにならないものはないですからね、後で職員室でデータを確認してみましょう。パソコンで。


2、体育の時間

[体育教師]□男がいないようだが学校来てたか、
[クラスの友人1]いたかな
[クラスの友人2]いたんじゃないか?また保健室行ってるんじゃ
[クラスの友人3]いや、今日は休みじゃなかったか
[クラスの友人4]それ昨日じゃないか、今日はいたよね?
[クラスの友人5]いなかったよ


3、鴉の証言

手すりに梟らしき鳥が止まっておりました。はい、学校の屋上。早弁のパン屑を狙って飛来したのですがね。矢先に「ふぉふぉふぉ、ふぉふぉふぉ」と鳴きながら入れ違いで飛び去って行ったのですよ。海の方角にね。ええ、大きな獲物を咥えていました四角くて香ばしそうな。脂っこくて甘ったるい香り。

*・゜゚・*:.。..。.:*・…・*:.。. .。.:*・゜゚・*

海で見つけたんだ

遠い目でどこを見つめていたのか

だから
二次元

閉じ込めたんだ、君を。

「全人類をコンピューターで管理できるなら
やってみればいいさ」

そっと
男子生徒が目を落とす写真には
トーストを咥えた
ガラスの


「僕しか知らない事件」



(メビウスリング勉強会 「アール・デコ」課題詩:新川和江 『記事にならない事件』 提出作品)


自由詩 僕しか知らない事件 Copyright とよよん 2015-02-05 18:31:42
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