花と雪
葉leaf




真っ赤な花が白い雪でくすんでいる
赤が赤になる前に白がそれを遮り
白が白になる前に赤がそれを遮った
花と雪とが小さな組合を作り
花が風景を焼き過ぎるのを雪が消火し
雪が風景と睦み過ぎるのを花が攪乱する
ここにあるのは調和の美しさでもなければ
矛盾の美しさでもなければ
相克の美しさでもない
ここにあるのは冬の迷路
花が雪でまぶされるだけで生じてしまう
脱出できない冬の迷宮
赤は赤にも白にも到達できず
白は白にも赤にも到達できない
花と雪とはこの冬の迷宮を巡り続ける
行き先を失った一組の旅人
電車の窓から一瞬だけ見えた
人家に植えられていた山茶花の花
雪にまぶされたその佇まいに
迷宮を彷徨い続ける
一組の赤と白とを見つけて
その瞬間に固定された終わりのない旅路の
美しい惑いと躊躇いと祈りを
風景からもぎ取って
僕は長い一日の始まりにどっさり持ち込んだ
それは僕の迷宮の一つの精確な地図で
例えば僕とあなたとの終わりのない旅路を
どこまでも悲しくかたどってくれるだろう


自由詩 花と雪 Copyright 葉leaf 2015-02-05 04:57:09
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