窓辺
あおい満月

真冬のリビングに
玉葱の皮がひらり
落ちている。
昨夜、
母親が手探りで
カレーかポトフーを
つくろうとしたときに
すり抜けたのだろう。



浴室で、
髪の毛が束になって抜ける
髪の毛はまるまって
宇宙をつくり、
海にとけていく。
抜かれた髪の毛の孔は
抜け殻になったまま
芽吹く春を待つ

**
母親の桐の箪笥をあけると、
預金から引き出した
銀行袋が散っている。
どの袋も空だ。
足元にぎざぎざした
何かが落ちている。
いつのまに入り込んだのか、
夏の脱け殻が、
胎児になって踞る。

***

(今夜は此しかないよ)

奮発して買ったという
丸々太った九十九里の鰯のまる干し
頭からかじりながら
さくさくした目玉が
抜け殻みたいだ。
表札が、
強風で飛んでいったあとの
我が家のリビング
夜が明けて、
朝焼けが照らすのは 昨日食べた鰯の
母親が食べ残した半身
虫に喰われる前に
ビニール袋に入れて
かたづけてしまおう

誰かがいて、
誰もいない
部屋の窓辺で。



自由詩 窓辺 Copyright あおい満月 2015-02-02 23:41:28
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