黙示
服部 剛
小学生の頃 道徳の授業で
トマホークというミサイルの映像を見せられた
昼休みの図書室で
「はだしのゲン」を読んだ
全身を包帯で覆われた母親が
生と死の境目で
息子の名を
とぎれとぎれに呼んでいた
その傍らを
自らの目玉を手のひらに乗せた男が
水を求め猫背で歩いていた
僕は こわかった
大晦日 両親に連れられて
深夜の初詣に行くたびに
「世界が平和でありますように」
と小さい両手をあわせた
祈りは香の煙に溶けて
お経と木魚の音とともに吸い込まれていった
境内の屋台で
お父さんとお母さんにはさまれて食べたおでんの味は
大人になった今でも僕の心にしみているんだ
拝啓:大統領殿
あなたは教会で祈ったことがありますか?
今 この時にも
世界のどこかから聞こえる産声を
イメージできますか?
彼等に遺す21世紀は20世紀と同じ廃墟ですか?
あるいはそれよりも悲惨な世の終末ですか?
僕は昨日夢を見ました
真夜中の教会で
十字架にかけられた人の背後が
一面 ほのかに光るスクリーンとなり
映し出された光景は・・・
貧しい国の家無き親子が
テントの中 一本のろうそくを頼りに
三人で一つのパンを裂き
幸せそうに心を充たしている
彼等の上から異様な音をたてて
悪夢の塊が落ちてくる・・・・・・・・
そんな夢です
それを 見る時 あなたは
十字架にかけられた人の 頬を震わす哀しみに
一体 何という 言葉で
祈るのですか?
* 反戦アンデパンダン詩集(創風社)掲載