アンテ


毎日まいにち
腕を鍛えあげることが大切だって
教わった
常に鍛錬を絶やさず
たくましい腕を持つことができたら
不自由なく生きていけるそうだ
学校は毎日まいにち
腕を鍛える授業ばかりで
まわりのみんなも一生懸命だ

パンも牛乳も
砕かなければ固くて食べられないし
家のドアを開けるには
ノブを力一杯ひねらなければならない
服は丹念に叩いてやわらかくし
布団に押しつぶされないためにはコツがいる
世の中はどんどん固くなっているそうだ
空気だって
粉々にしないと吸えない時が来る
ってことも
学校で教わった

お金持ちになれば
毎日やわらかい服が着られるし
おいしいものを好きなだけ食べられる
だから腕を鍛えなくてもいいし
そのぶん好きなことができる
世界のどこかには
ふわふわの服や食べ物があるんだって
数がすくないだけなんだって
思ってた
おとうさんや他の大人たちが
物をやわらかくするお仕事をして
お給料をもらってるだなんて
知らなかった

年を取ると
体がだんだんかたくなって
ついに動けなくなると死ぬのだそうだ
そんな風に死ぬのは怖いけれど
そのうち
体がかたくならない薬が発明されるかもしれない
でも きっと高くて
お金持ちしか買えないんだろう

学校の授業は腕の訓練ばかりで
すぐにくたびれてしまう
軟弱だから鍛えなければならないのに
軟弱だからぜんぜん続かない
給食を食べるのもいちばん遅いし
体操服に着替えおわった時には
授業がおわりかけている
どうしておかあさんまで呼び出されて
ぺこぺこ謝らなければならないんだろう
わたし グズだから
みんなといっしょに遊んでいても
みんなのようにできないから
みんなが迷惑がっているから

腕なんてちぎれてなくなればいいのに
って言ったら
おとうさんに思いっきりぶたれた
それから
おとうさんは泣いた
おかあさんも泣きだした

とても寒い朝
息をはぁって吐いたら
空中にかたまりができた
パンチをしても
なかなか壊れなかった
はぁはぁして
かたまりをどんどん大きくして
そのうえに登って
またはぁはぁして育てるうち
ずいぶん高くなった
街じゅうが見わたせた
かんこんなにかを叩いたり壊す音が
ひっきりなしに聞こえてきた
壊すのはあまり好きじゃない
って
本当は言いたかったんだ
わたし
きらいだーって叫ぶと
遠くまで声のかたまりが飛んでいって
ほうき星みたいにきらきら粒をまき散らした
おひさまが高くなったので
かたまりのてっぺんで大の字になって
お昼寝をした
ぎしぎし
あちこちから音が聞こえてきた





自由詩Copyright アンテ 2005-02-04 01:35:47
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びーだま