すべて
カワグチタケシ

すべてを知りたいと
思うところから
なにかが終わりながら
なにかが始まる

夕陽が沈む
半袖にも
長袖にも
橙色を映して
前を歩く人の
トートバッグも
紙袋も
橙色に染めて

風は西から吹いてきて
次から次へと
東の空へ抜けていく

すべてを知りたいと
願う
終るなにかも
始まるなにかも

運河が満ちている
橋の上から
かすかな波紋が
運河の底に沈む
何かの存在を示す

その光景は記憶に浅い傷を残す

冷え過ぎた都バスの冷気をまとって
熱帯夜に歩き出す
レコード屋の店先に漏れ出す
君の瞳に恋してる
君の瞳から始めて
ひとつずつ
すべてに至るまで
君の姿を組み立てる

すべてを知りたいと
思うことは
すべてを知ることができないと
知ること

郵便ポストをデスクの代わりにして
アドレスを交換するふたりの少女

死んだ恋人に届かない手は
生きている友だちにも届かない

すべてを知りたいと思う
すべてを知りたいと願い
すべてを知りたいと祈る

祈りとは届かないということ
叶えられるのは
すべてが終わるとき

小さななにかを終わらせることで
僕らは
別の小さななにかを手にする
すべてではない小さななにかを

すべてを知りたいと
思うところから
なにかが終わりながら
なにかが始まる


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自由詩 すべて Copyright カワグチタケシ 2014-12-20 12:11:13
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