チョコレートにとって基本的なこと
カワグチタケシ

1.
流星群のニュースを眺めながら、キッチンテーブルにほおづえをついている人。
窓の外は曇り空。明日は雪の予報。その涙がはやく乾きますように。

映画館のロビーで、美しい少女が
父親といっしょにポップコーンを食べている
やわらかくウェーブのかかった長い髪が
大きなガラス窓の外の夜へとのびていく
夜の海には無数の小さな灯りが
またたいている

僕はぼんやりとその光景を眺めながら
海峡の街からの通信を待っている
まるで雪の沙漠のように
しんと冷えた君の街から

チョコレートにとって基本的なこと
僕らは点滅する灯り
冬の声が深海をくぐって
稜線づたいに都市へと届く
電波のみだれでとぎれがちな通信は
それでもたしかに人の存在を示す

小さな冬の声を
その声に託された切実なひびきを
見逃さないように
いつも目をあけていよう

ときどき目をとじて
小さな冬の光に
耳をすまそう
意志の姿勢で

皆既月食のニュースを聞きながら、キッチンテーブルで君に手紙を書こう。
東京上空は雲におおわれている。君の暮す街は雨に打たれて、月を見上げる
ことができない。フロリダから送られてくるオレンジ色の動画。その夕空に
点滅する星をひとつ、君にプレゼントしたいよ。


2.
チョコレートにとって基本的なこと
風のゆくえ
多くの船がカカオを積んで碇泊している南米の港町
ママはいつからマフラーをしなくなったんだろう?

星を巡るバックパッカーの冷えた手を
握ったときの指の温度
すこし眠たい僕の手であたためて
その熱で星を溶かしてしまいたい
そして、夜に溶けてしまいたい
濡れない場所から雨を見ていた
日々が遠ざかる


3.
君は小鳥
僕は一粒の大麦
ついばまれ
君の内側を通過し
夜のどこかに
ぽとりと落ちる

その音を逃さないように

僕をさがして

君をみつける


4.
そして洗いたての古いタオルのように
すこしざらついた陽がのぼり
あたらしい一日がすこやかに目をさます
いずれ廃墟となり、瓦礫となるこの都市が
あたらしい一日をむかえる
まず東の海から運河の方角へ
そして街路を巡り、海峡を越えて、君の暮す部屋に
あたらしい一日がおとずれる
あかるい朝だ!


Contains samples from S.Ito, E.Dowson & Y.Tanabe

 


自由詩 チョコレートにとって基本的なこと Copyright カワグチタケシ 2014-12-20 01:10:33
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