秋の階段
Lucy

見よ 夕焼けを照り返すほの暗い進化の井戸に化石した都市はうずくまり
たわわな花火をしげらせ枝はしなだれて
反転する視界に渦巻く積乱雲のふもとの石の階段
奈落の淵にさえずる木の実の色のように君の思い出は落ちてゆくのだひとつひとつの意味は羽化を遂げ
歴史の翼は君の心臓の重さに削られるデジタルの気流に吹きあげられ言葉はついに必要を取り戻す
るいるいとつらなる夢の屍骸の野辺の果てにひらひらと舞い落ちる暴力と欲望とに引き裂かれた亡霊の口から放たれて

ワタシハジユウニナリタイワタシハジユウニナリタイワタシハ・・・

錆びた鉄柱に意味は食い下がりバス停に舞う鳥の羽根の根元から鎮まる夕暮れの空にめくれた口唇のように白い半月
君の眠りは黒雲の流れ途切れながらなお遮るのしかかる記憶の闇に閃き轟かす稲妻かつて一時期この様にさざめくそよ風殺意秘め救済に込められた暗示を突き刺し跨いで跳べはるか天空桃色の空を行く幾千の鯨の傍らで熟れ落ちてゆく月のとなりであせてゆく君の横顔
元気でいてください元気でいてください元気での言葉が届く元気でいてください無関係のさざ波の日常の切れ間からすでに繋がらないことを告げ
元気でいてください元気でいてくださいどうぞご自由に
届く祈りも願いもなく届けたい強い思いもなく無残にも過去へ遡り朽ち果てたもやいをみいだすまでもなく
断ち切る痛みもなく憎しみもない喪失が押し寄せるいつでもどこでも誰とでも交信できても誰とも繋がらないディスプレイの裏側の暗闇の岸辺に誰もがうちあげられる時
元気でいてください元気でいてください元気で
急速に深まりゆくものは秋であり黄昏であって比喩はない飾るBGMはない

守ろうとしたことなどなかったむしろ囚われこそすれそれを愛という観念夢という観念平和という観念
絶望といい憎悪という進歩といい堕落という信念といい誇りといい自我というそれをその魂の牢獄を

ワタシハジユウニナリタイジユウトイウソノカンネンカラモ

錆びついた鐘のまわりに錆びついた鐘の響きがポロポロとこぼれる記念公園踊る落ち葉をかき乱しては吹き過ぎる風海から空へ巻きあがる雲スイッチをOFFにするともうすぐ隣に冬は来ている窓枠をカタカタ鳴らしている冬以外来るものはないという断定の上に最後の足場は築かれる














(2012年1月刊 詩集「誰にも見えない虹」に収録の過去作。)


自由詩 秋の階段 Copyright Lucy 2014-12-17 22:33:53
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