砂漠のテメレール
凍月



遠い砂漠から汽笛が聞こえる
旅人は足跡を創造する
風が砂と 錆びた金属の骨を運び
空気の帯びる熱の温度が上がる

一歩踏み出すと砂が落ちてくる
目の前にある白い黄金の丘
その向こうから
重い響きの汽笛が洩れだしてくる

日の出のように
巨きな陰から延びる一条の光の筋
埋没した
かつて戦艦だった塊は
輝く灼熱の大海から
大きく飛沫を上げ
今まさに飛び出しそうだった

風化して洞穴を開けた
歴戦の金属の集合体は
その空洞を
砂を含んだ風が通る度に
遥か過去にも等しく轟いた
力強い汽笛を上げる

もはや大砲も落ち
砂に突き刺さり柱となった
数々の武勇の面影など
微塵も残らないが
その汽笛だけは今も
茫漠の世界を航海し続けている


それでも陽は落ち
金属は冷える
月の下 闇の中
か細い汽笛が虚しく溶けた

また太陽が昇っても
もう二度と海を進む事はない







自由詩 砂漠のテメレール Copyright 凍月 2014-12-14 08:15:27
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