夢
葉leaf
私の本棚に収められている本は、人生のそれぞれの時点での興味や意欲を摘み取ってきたものなので、その総体でもって私の第何番目かの人格として静かに呼吸している。一つの本は別の本に呼ばれたのかもしれないし、別の本を新たに呼んだのかもしれない。本を選ぶにあたっての微妙な気まぐれが、本同士の連関の網を私の知性の文様にひっそりと沿わせている。
それぞれの本からは、知性の嗅覚に訴えるような様々に異なった香ばしい匂いが立ち昇っていて、私に欲望されるのを待っている。そして、本たちは何気ない日に急激に私を襲う。日々の雑事にかまけていて、ふと部屋を眺めると、本の質と量に圧倒されるのであった。本たちは私の容量をあっという間にあふれ出て、私からも部屋からもどこかへ旅立ってしまいそうに思える。本は大量に存在することで私の精神に襲いかかり、私は自分が買ったはずの本に逆に組み敷かれてしまうのだ。
本は私に物理的に支配されながらも、内容的には私を超え私を教育するものである。本は美的にではなく論理的に美しい。そして、本は偉大でとらえ尽くせないはずの著者の精神を、たかだか一人の人間の手に収めてしまう不思議な変換装置である。本は内容的に美しく私を凌駕しているので、そこには私の最後の夢が残されている。たいていの夢がついえた今、私の最後の夢は、本の活字の集積、それを摂取して血肉とすることで、私自身を超え、更には本に表現された偉大な精神を超えていくことにある。全ての優れた本には一つずつ夢が詰まっている。私は本を読了することでその夢を一つずつ開いていき、どこまで続くのか分からない夢の階段を一歩ずつ登ってゆき、人生を本によって穿たれた聖痕でいっぱいにするのだ。