名刺
葉leaf
はじめ名刺は刃のように
私を私から切り離した
名刺の上には私の生首が乗っていて
所属や肩書など嘘ばかりべらべらしゃべる
私は生身の人間だ
そんな機関にはまだ身を任せていないし
そんな偉そうな肩書には反吐が出る
私は腹の底から反論し
白目をむいた生首といつまでも口論した
だがいつしか名刺は葉のように
私という枝から素直に生え出る器官になった
私は生身の人間であるがゆえに
そのような機関と馬が合うし
そのような役割を果たすことに喜びを感じる
私の身体を一枚削れば名刺が生まれ
私は名刺を自分そのものとして沢山の人に与えた
相手の名刺入れには私という人間が
果実のように丸ごと収まった
だがやはり名刺は石板でしかなかった
一度記された私の存在はいつまでも動かない
水のようにしなやかな私の変化に名刺は追いつかない
名刺の上には私の死体がよこたわっている
私はもうそこに書かれているより一層
社会にみなぎる生命を摂取し
夥しい責任を成果として社会に還流させている
生きた私はもうどこにも記されていない
名刺はもはや一枚の偽造文書
私はそこから社会へと限りなく溢れ出してしまう