鉄板焼物語
keigo


むかし、むかし
僕の育った家には
2人の鉄板奉行がいて
鉄板焼の日には
競うようにその辣腕を奮った

ジャガイモ
ニンジン
ソーセージ
肉はまだだと言っただろ

言ってみれば筋金入りの仕切屋さん
けれどどれだけ頼りにしていたか

タマネギ
キャベツに
まめもやし
そろそろお肉もいいかしら

不器用でおせっかいだけど
その惜しみない愛情に
どれだけ救われたことか

鉄板焼をはじめるなら
全員参加が条件です
なぜなら独りじゃ食べきれないから

鉄板焼をはじめるなら
全員参加が原則です
なぜなら独りじゃもったいないくらい
溢れるものがあるから

仕上げに焼きそば投入
もうすぐお別れだけど
楽しみにしていたのは
クライマックスの焼きそば

ジュージューとソースの焦げる音が
胸に染みわたり
ー卵も落とそうかしら
ーああ、そうだな

そんな場所がまだあれば
僕は無敵でいられただろうか
どんなにしんどくても
まあいっかって割り切って
ただいま、って言えただろうか

滲む鉄板は
水蒸気なのか
あるいは涙のせいなのか
もう思い出せないほど
遠く離れ
明日にはもっともっと
遠く離れて
永遠に交わることはないけれど

ーほら、なにボーっとしてるの
ー冷めちゃうでしょ

時々思うんだ
時間が逆流して
また何事もなかったかのように
あの食卓に集まる日がくることを


自由詩 鉄板焼物語 Copyright keigo 2014-12-06 16:43:14
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