ひとつ 篩
木立 悟
絵の具のにおいの
血の味の白湯に
夜を映して呑みつづけている
光の奥にあるものに
触れたとたんに移動する
人のものではない矜持がある
熱すぎて近づけない
翼と輪の息
喉から胸から
立ち昇る霧
巨大なブイが
月下の海に浮かんでいる
風が波を叩いている
血まみれの指で叩いている
目の上の目が
次々に飛び去ってゆく
まばたきの重さを
感じる間もなく
ふたりには手
ひとりには指と知っている
だが周りは思いのほかすばやく
またたくまに半身は置き去りにされてゆく
雨の夜の灯 散り咲いて
どこまでも明るい 曇の握手
冷えてゆくとは 知りもせず
あやまちを背負い 消えてゆく
赦された日
片方を失い
光を見つけた
氷の下の
水を見つめた
空の上の
逆さの地から
すべての夜が
しずくとなって落ちてくる
見えない水
見えない水
花は花を透り
さらにさらに細かくなり
夜の味はますます濃く
人のものではない矜持をかがやかせてゆく