百獣
千波 一也


わたしのなかには
百獣が在る

ねむれる獣とあらぶる獣
したがう獣といたわる獣

あなたのなかにも
百獣が在る

おびえる獣とひきいる獣
あてなき獣とみすかす獣

どこから内だか分からない
どこから外だか分からない
それゆえなおさら百獣は
在る

かしこい獣といやしい獣
ほこれる獣とさまよう獣

だれが名付けられようか
だれを名付けられようか
定まらぬところを定めるように
解き放たれる百獣ならば

だれが否められようか
だれが肯んじられようか
名を持たぬことを名とするように
見え隠れする百獣ならば

あわだつ獣とひさしい獣
むさぼる獣とむくなる獣

すべて
滞りなく滞って
余すところなく余して
百獣は呼ぶ

すべて
揺るぎなく揺らいで
寄る辺なきを寄る辺として
百獣は呼ぶ

すべて
予定どおりにひと粒ずつの
大いなる混沌の一瞬のその百獣を
百獣は呼ぶ

へつらう獣とむれなす獣
ただしい獣とむなしい獣

永遠の淵に隙間に奥底に
百獣は在る

まばゆい獣としずかな獣
にごれる獣とすなおな獣

軸と軸とが交わって
虚無と虚無とが交わって
生まれつづける滅びの王座に
百獣は在る

とらえる獣とかこいの獣
けだかき獣とかよわき獣







自由詩 百獣 Copyright 千波 一也 2014-11-28 21:52:00
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