カッコーの家
島中 充

みそかそばのテンプラをひっくり返しながら
正月を刑務所でくらす金物屋金蔵を箸で摘まんでいる

名字は金物屋 名前は親の手抜きの金蔵
店の名前 これも手抜きの金ちゃんうどん
夫婦で軽トラのうどん屋台だった
だしが旨いので 真夜中私はよく食べに行った
道端で立小便をして てんぷらうどんをつくった
わたしがうまいというと
お客さん てんぷらうどんのテンプラは世の中と同じよ
表と裏があって エビの見える方がタテマエよ
哲学者になった

赤子を背負って手伝っていた奥さん
ひとまわりはなれている若い奥さん
巣を持たないカッコーだった
銭湯に行ってくると言って そのまま
洗面器をもって そのまま
どこかへ飛んで行ってしまった

おじいさんとおばあさん 小さな子供が二人残され
一家五人が食べていけなくて
朝のアルバイトは幼稚園のバスの運転手になった
眠たかったから覚せい剤
優しかったおじさんが園児に当たり散らすようになって
覚せい剤中毒で逮捕された

テンプラの裏表を確かめていると
除夜の鐘
金蔵一家の新年は しかたない
成るように
鳴る


自由詩 カッコーの家 Copyright 島中 充 2014-11-11 23:52:17
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