油性・水性
マチネ

全く故郷ではない場所で
帰って来たと思った
歯医者近くの薬局だった。
流動体のオブラートをぼおっと見ていたサラリーマンが、自動ドアと私に気が付いた。
上目づかい。流れる血が死んでいて。そこをまぶたと呼ぶらしい。

歯を治しに来たのではなく、
金を受け取りに来たのです。

唇は鰭のようにはためき。赤く。摩擦熱で乾いている。
心臓の位置にある、入り口の狭いポケットから、リップクリームを取り出したサラリーマンの右腕と右手と指たちが
たっぷりとささくれたそこに油を差して、彼の口を完璧にする。
もう泳げない。

あなたが無事でよかった。

どこが。

いつの間にか、不機嫌な薬剤師が立っている。
白く眩い、ビニルと紙だらけの部屋を背にして。
蛍光灯は今日も正しい。

この人は、私たちの財産を奪いにやってきているんです。


自由詩 油性・水性 Copyright マチネ 2014-10-27 16:50:27
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