一〇〇パーセントの死を先延ばしできる確率は?
イナエ

「この手術は何しろ心臓をいじるのだから
 一00パーセント安全だとは言えない
 まあ 三パーセントほどの危険でしょう

 《ディスプレイでは
  心臓を取り巻いた毛細管が
  赤いイトメのようにもつれ合っている

(ということは…… 
 生き残る確率九七パーセントかあ
 
 《イトメはキラキラ輝いて
  炎のようにゆらゆら揺れて踊っている

「わたしは まだ一度も失敗はありませんが…
(ということは……
 こんども成功か いや ぼつぼつ失敗かな

 《不意にイトメが消えて
  心臓が震える

不規則に見えるイトメの動きにも
彼らの座標の上で規則正しく揺れて
血液を細胞に運んでいるのだろう

毎朝いくつもの交差点を用心深く渡り
エスカレーターで地下に下り
地下を走る通勤電車に乗り
車が低く唸って往来する路の歩道を一キロほど歩き
釣り天井の下の仕事場にたどり着く
一00パーセントの安全を信じているが…

 (車が歩道に乗り上げる確率は
 (走っている電車が火を噴く確率は
 (地震がおきてビルのガラス片がふる確率は
 (地下で生き埋めになる確率は
 (天井が落ちて下敷きになる確率は

日常の安全に隠れた危険の確率は
どれほど微量であろうと……

 走る車の軌道が狂って轢かれた人を見た
 鉄橋の上で燃える電車を見た
 三パーセントの危険よりは微量というけれど……

 (まあ 医者の腕に任せるしかないな……

 (過去作改稿)


自由詩 一〇〇パーセントの死を先延ばしできる確率は? Copyright イナエ 2014-10-21 09:04:18
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